第29回の介護福祉士国家試験を受けてきたので、それを通してみたときに感じた共通点や、来年以降の試験にどう立ち向かっていくべきか?ということについてお話したいと思います。
これから第30回を受けるあなたの参考になればと思いますので、是非参考にして国家試験の対策にしていただければと思います。それでは紹介していきます。
次回の31回の介護福祉士の国家試験の予想も立ててみたのでぜひ参考にしてみてください。
目次
①難易度がバラバラ!
まずは29回の試験問題について感じたことから、具体例として問題を紹介しながらまとめていきたいと思います。
今回の試験でもっとも受験生が困惑していたのが、出題難易度の問題です。 今回の試験は総じて、とても難しい末端の知識や一歩踏み込んだ情報を聞く問題が多く出ている一方、「クイズかな?」と思うようなとても簡単な一般常識的な知識を聞いてくる問題も多く出ていました。
過去問を主に勉強方法としてつかっていた著者からすると、過去の何年かよりも明らかに今回の試験はそのギャップが大きかったと思います。
具体例
難易度の高かった例として、たとえば問題69があります。
エリクソンの発達段階の中で、「青年期」の発達課題として正しいものをひとつ選びなさい。
- 生殖性の獲得
- 信頼感の獲得
- 同一性の獲得
- 自発性の獲得
- 親密性の獲得
正答:3同一性の獲得
以前の過去問でも、この形式の発達課題の問題が出たことはあります。 ところが、そのほとんどは「発達段階説の論者とその内容の組み合わせ」を答える問題(エリクソンはイギリスの心理学者で、発達段階を8段階に分けたが、フロイトは6段階(ないし5段階)にわけ、その中核を欲求に求めた、とか)でした。
今回のように、分類した段階の中身を聞いてくる問題は、かつての問題形式より出題数が少なく、かつ難易度の高い問題となっていました。
また、問題71のように老化の進行の過程をたずねる問題においても、身体能力について直接にたずねるのではなく、「薬物代謝に対する高齢者の身体の反応」という形で別角度からきいてきています。
問題71 高齢者の薬物代謝について正しいものを選びなさい。
- 薬剤の吸収力が低下する。
- 肝臓の代謝にかかる時間が短くなる。
- 腎臓の薬物排泄量が増加する。
- 脂溶性薬剤は蓄積しにくくなる。
- 複数の薬剤の相互作用がおきやすくなる。
正答:5の相互作用が起きやすくなる
一方で、以下の問題はいかがでしょう。
問題97 脳の記憶をつかさどる部位はどこか?
- 延髄
- 海馬
- 視床
- 松果体
- 小脳
正答:2の海馬
これはちょっと医学番組や科学番組などをテレビで見ている人などではとくに勉強せずともご存知なのではないでしょうか。
また、問題117などはどうでしょうか。
転倒したKさんに対して、介護福祉職がとる対応として正しいものは?
- 痛みについて質問する
- 全身状態を観察する
- 吐き気を聞く
- シップを貼る
- ベッドに寝てもらう
正答:2の全身状態を観察する
おそらく介護職を3年経験されている方であれば、自然に2の対応をしているはずです。
29回試験は、実務者研修が導入されて初めての試験ですので、出題者がかなり難易度調整に苦悩したものと思われ、このように難易度が極端に高いものと低いものが散見していました。
新しい制度が始まったときの試験は、どのような形にせよ読みづらいものです。
30回はムラがなくなってくる!?
今回のような状況は、あくまで試験制度が変わったことによる出題者の動揺が招いたものだと推測できます。 そのため、次回以降の試験では今回の試験を踏まえ、ゆっくりと波が穏やかになっていくと思われます。
あまりにも難しい問題は減少していき、簡単な問題は基本知識として抑えられ、徐々に平均的な難易度になってきて、ムラのない全体の範囲から出題されていくこととなります。 何だそんなことかと思われるかもしれませんが、これからの試験はより「基本知識を抑えつつ、抜け目のない積み重ねのような勉強」が必要となってくることでしょう。
②出題内容が細かい!!
第29回の試験で著者が印象強かったのは、午前の部で顕著であった、「細かい法令や制度などからの出題が多かった」ということです。 かなり、SNS上でもこのことについて精神的ダメージを受けていた受験生も多かったようです。
具体例
介護福祉士国家試験を受けるとき、合格点を取るためにまず大きなハードルとなってくるのが「社会の理解」です。 介護サービスの制度、法律、また、保険や年金といった経済関係の知識、社会構成など介護実務を淡々とこなしているだけでは一切触れることのない知識を要求する分野です。
その中で、特に過去問やテキストで重要視されているのは1番に「介護保険法」、次に「社会保険制度」としての「医療保険」と「国民年金」、そして「生活保護」です。
これらの勉強が完全に終わってから、次に手をつける問題が「雇用保険」や「虐待防止法」。 ですが、今回の試験ではこのような範囲から問題が出ていました。
問題8 産休を取る職員が、産前6週間、産後8週間にわたって得られる医療保険上の所得の補償制度をなんというか。
- 出産育児一時金
- 休業補償給付
- 傷病手当金
- 育児休業給付
- 出産手当金
正答は5の出産手当金
過去問でかつて出題されたことがあるのは、この保証金制度の前提となる「産休制度」自体の取得についての問題。 今回の問題は、そこからさらに一歩踏み込んで、産休制度をとった上で得られる更なる補償についてきいてきました。
他にも、こんな問題が出ています。
問題14 障害者総合支援法上の地方公共団体の協議会の機能として正しいものはどれか。
- 障害福祉計画の策定
- 相談支援事業所に対する評価
- 障害福祉サービス利用者の個別支援計画の策定
- 障害者からの苦情の解決
- 障害者等への支援体制に関する課題についての情報共有
正答は5
障害者総合支援法については、過去にも何度も出題がありましたが、その内容ではなく、その規定において設置される協議会の役割についての問題です。 ここまで受験勉強として把握できている人は何名いたのでしょうか。
さらに、次の問題はどうでしょうか。
問題16 生活困窮者自立支援法に関する次の記述のうち正しいものはどれか。
- 生活困窮者に対する自立支援策の強化とその促進を図ることを目的とする。
- 必須事業として就労準備支援事業がある。
- 任意事業として自立相談支援事業がある。
- 住宅を確保する必要があると認められた場合には、生活保護法の住宅扶助が優先される。
- 事業をNPO法人に委託することは出来ない。
正答は1
かろうじて、障害者総合支援法の協議会まで勉強が進んでいたとしても、生活困窮者自立支援法を知っていた受験生が何名いたでしょうか。
30回は介護職員の知的能力強化のために維持される!
今回の試験から、突然このような末端法令の出題が増えたのでしょうか。 著者は、この理由を介護職員の質の向上の観点から介護福祉士国家試験に実務者研修を導入してきた経緯に求めたいと思います。 どういうことかというと、「出題者は知らないことを当然としてこの問題を出しているのではないか」と考えるということです。
介護職員の質を向上させるために、介護福祉士国家試験が出来ることは、介護福祉士国家試験という機会を用いて介護職員に更なる勉強をしてもらうことです。
これまでの試験では、テキストに載っていたり過去問に乗っている知識を覚えていれば合格レベルに達することが出来ました。ですが、介護職員に求められるレベルがそれでは不足していると偏執的に考えた出題者は、「試験日の3時間40分さえも勉強時間としてほしい」と考えたのではないでしょうか。
つまり、過去問に乗っていない情報であっても、その場で選択肢を覚えてくれればそれでいい。このように考えると、今後の試験でもこのスタイルは維持される可能性が高いです。
③医療的ケアからの出題!
今回の試験から、介護福祉士国家試験を受験するためのルートとして「介護職員実務者研修」というものが始まっています。 詳細は別記事に流しますが、実務者研修が介護福祉士の国家試験に直接影響を及ぼす部分といったらやはりこの医療的ケアの部分でしょう。
かつては全120問だった問題に5問医療的ケアの問題が追加され、試験時間も10分増加。これによって受験生の負担は格段に増えました。
具体例
基本的には、介護職員実務者研修の学習範囲から出題されていますが、著者的には盲点もありました。 各所模擬試験では、医療的ケアの出題は「実施」の範囲から出題される予想が大部分でしたが、以下のような問題が出題されています。
問題109 介護福祉士の業として喀痰吸引等を行うことが出来るように規定した法律はどれか。
- 社会福祉士および介護福祉士法
- 社会福祉法
- 介護保険法
- 医師法
- 保健師助産師看護師法
正答は1
医療的ケアの法的根拠を尋ねる問題ですね。 喀痰吸引等研修をそもそも「なぜ出来るようになったのか」を知っておかなければ、安全なケアは出来ないわけですし、予想外ではあっても意表をついたような奇問珍問ではありません。
そして、もちろんこの法的根拠についても、実務者研修の学習範囲にちゃんと入っていますのでしっかりと復習しておけば取れない問題ではありません。
全5問のうち、他4問は実習での注意点がそのまま試験問題になっていますので、特別な勉強をすることよりも実習で学んだこと、実習の様子を思い出せばよい簡単な問題でした。
問題111に出ていたのは、喀痰吸引等研修の範囲というよりもむしろ「鼻腔とはどこか」を答えさせる問題でしたので、解剖生理学(こころとからだのしくみ)の射程でしたね。
出題方法はそのまま、中身は濃く。ニュースを見ると吉!
医療的ケアの分野は今回が初めての出題で、出題者にとっても手探りの部分が大きいと思われます。 今回の29回試験の正答率を鑑みて、次回以降の出題を調整してくることが予想されます。 問題自体は大きく変更することはないと思います(範囲が狭いので)。
受験生の立場として気をつけなければならないのは、医療的ケアの範囲に限れば、テキストとの対面時間よりもむしろ社会の流れに目を向けていくことだと思います。
今後、実務者研修や喀痰吸引等実地研修を経て実務的に医療的ケアを実施する職員が増えてくると、それに伴い事故や事件も増えてきます。事故や事件が増えれば、より注意深く制度を見直す必要がありますので、試験問題もより深い部分を聞いてくることになります。
また、事故や事件が増えてこなかった場合には、医療的ケアの範囲が広くなってくる(法律上認められる医療行為が増えてくる)ことが予想されますので、どちらにせよ試験範囲が広くなったり、出題者が「より注意深く実施してほしい」と考えることから試験が難化する一方であると考えられるのです
④29回だけ? 難問・奇問・悪問のオンパレード!
第29回試験は、実務者研修の影響でとても予想が困難な試験内容となっていました。 出題者も相当頭を悩ませたようですね。 今回の試験は特に、奇問・悪問といわれるような出題が多く見られていたと思います。 特に悪問が多かったのは、各教室の解答速報が2月に入ってもいまだ揺れ動いていることから想像がつくかと思います。
具体例
今回の試験が終了したとき、インターネットでもっとも注目されていたのがこの問題です。
問題102 寝たきりでストレス侵襲のない70歳女性の一日に必要なエネルギー量を計算しなさい。
- 600kcal
- 900kcal
- 1200kcal
- 1500kcal
- 1800kcal
正答は3
「えっ、介護福祉士の試験って計算問題出るの!?」 …著者も現場で驚きました。ですがこの問題実は、活動係数とストレス係数が表になってすでに問題に一覧にされていて、その上一日に必要なエネルギー量は基礎代謝量に活動係数とストレス係数をかけることによって算出できると示されている、「読解力」の問題でした。
「勉強できないから介護始めたのに…」という嘆きも何人も出ていましたが、嘆くことはなく、ただ文章のとおりに計算式を当てはめて計算すれば、基礎代謝980kcal×1.2=1176kcalで答えが出てしまいます。
29回問題は、この問題をはじめとして、過去の出題よりも「ビジュアル」な問題が多かった印象です。 和食の配膳スタイルを組み合わせる問題…窓の開け方で風の通り道を作る問題…柄の長いクシは誰に使わせてあげるべきか考える問題…図や表、イラストを用いて視覚に訴える問題が散見していました。 難易度としては非常に低いです。みたまんまの出題が多かったです。
一方、やはりインターネット上で話題になっていた、いっそ「悪問」とさえ呼べるような難易度の高い問題もいくつか出ています。
問題23 ユニット型指定地域密着型介護老人福祉施設の性質を尋ねる問題
- 家族や友人などが気軽に宿泊できる
- 昼間は2ユニットに1職員を配置しなければならない
- 食事は施設が決めた時間に食べ終わらなければならない
- 利用者定員は災害などがあっても変わらない
- 多様な娯楽設備を備え、外出しなくても施設内で生活が完結する
正答は1
…ですが、この問題、妙です。介護保険法上の施設である特養は、被介護保険者しか利用できません。なので、家族や友人が気軽に宿泊できるわけがありません。 ユニット型施設は、1ユニットに1職員を配置するところに良さがあります。
食事を施設のリズムに合わせたり、外出させないようにするのは利用者のQOLの観点からすべきではありません。 地域密着型の施設が、地域で起きた災害に協力できないというのは果たして地域密着型の性質となじむのでしょうか。
…つまり、「解答がない」というのが正解と思われるのです。
また、次のようなよく出題される傾向の問題にも奇妙な設問がありました。
問題33 (事例問題が設定されている。)食卓に用意された食事を食べないJさんに対するホームヘルパーの声かけとして正しいものを選ぶ問題。
- 「なぜ食べないのですか」
- 「たべなければだめですよ」
- 「無理してでも食べてください」
- 「一緒に作って食べましょう」
- 「一日に三食は食べましょう」
正答は4
ですがみなさん考えてみてください、食卓にすでに並んでいる料理を目の前にして、「一緒に料理を作りましょう」とはどういう状況でしょうか。
このあたり、出題意図が読めません。 他にもいくつかあげられるのですが、紙幅の関係で省略します。
29回の試験は特殊だった
次回からはないし、気にしなくてよい 今回の試験は特に受験者、出題者ともに動揺の大きい試験でした。そのため、出題者が難易度調整に非常に苦労した様子が見られます。 このような同様は、試験制度が大きく変化した際によくみられることなので、気にする必要はありません。
というよりも、対策も出来ませんし、当日になるまでどうなるかもわからないのです。 このような悪問や奇問に引っかかっているよりも、正統派に基本的な知識を得ておくほうが、試験に受かりやすいのはもちろん、実務についても有用なのです。
出会ったら交通事故にでも遭ったと思って忘れましょう。
まとめ
以上、長々とお話してきましたが、いかがでしょうか。 まるで解説というよりも著者の愚痴(?)のようになっていますが、今回の試験はなにより動揺の激しい出題でした。
皆さんは問題自体に気おされることなく、泰然と立ち向かっていただきたいと思います。 そんなこれからの受験生のために、拙著が多少の気晴らしになればいいなという気持ちで、今回は締めたいと思います。
追記:30回予想結構当たってた感じがしましたね!
30回介護福祉士試験を受けてきたみなさんは手応えはどうでしたか?
次回は31回介護福祉士試験ですね!
31回の介護福祉士の国家試験の予想も立ててみたのでぜひ参考にしてみてくださいね!
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